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ビジネスの色々なテーマを徒然なるままに考察し書き下ろしたエッセイです。
ステレオタイプなビジネスの見方を更新するべく、ビジネス論の範疇で能う限りリベラルな視点・切り口を導入しています。
ビジネスの、経営の、パルマコン=毒⇔薬として、思いがけない誤配を夢想した宛先不明の手紙として。
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組織の未来
事業や環境が複雑になるにつれて組織も複雑になる。これはよく言われるし実際にそうだろう。一般論として複雑な組織は効率が悪くマネージメントし難い。そこから、肥大化・複雑化した組織を再びシンプルにしよう・すべきだといった主張に繋がっていく。 だが、逆の論理にも刮目すべきである。組織が複雑になれば事業も複雑化する。「組織」をネットワークに、「複雑」を多様・発達に読み替えて見ればわかる。組織のネットワークが多様化・発達すると事業も多様化・発達していく。ここに組織の未来・可能性がある。 組織の境界や指揮系統をリジッドにすれば効率は上がる。拡大再生産に向いた組織構造だ。だが新しいものは生まれない。一方でネットワーク型組織については、組織の形としては「未来予想」的に語られはするが、そのインプリケーションや実際の可能性は突き詰められていない。発展途上だ。 例えばデジタル技術を駆使して「アイデアの流れ」による「知恵の創造」とネットワークの関係が実証的に研究されている。非常に乱暴に纏めると、適度な複雑さ(ネットワーク)を持った集団の方が知恵が発展する・良い知恵が広がる確率が高い。より細かくは、スケールフリー型ネットワークの方がランダム型より繋がりが多様になり、全体パフォーマンスが上がり易い。だが繋がり過ぎるとエコーチェンバー効果が大きくなって、孤立よりはマシとは言え、良いアイデアが広がる前に普通以下のアイデアがブーム的に広がってしまう可能性が高まる。 アイデアの流れは人の模倣行動特性によってちょっとした接触からでも生まれる。私たちは自分が思っている以上に全然理性的ではないようだ。だが理性的ではない行動によって孤立した個人よりかしこい集団になり得るというのは皮肉ではあるが面白い。 ネットワーク組織の研究では、アイデアの流れに加えて、社会圧力を上手く駆動させるソーシャルインセンティブによって個人の行動変化が劇的に促進される、という研究も示唆深い。個人への報酬よりも、その個人に働きかけるよう集団にインセンテイブを与えた方が個人の行動変化に2~8倍の効果が認められている。企業のインセンティブ設計にも大きな一石を投じる研究結果である。 社会心理学や社会物理学が明らかにしつつある、情報や行動に対する集団の影響やそのメカニズムに関する新たな知見は、組織のハード・ソフト設計に根本的な変革を迫る。根本的すぎて、変革に歩を進められない企業が大半だろう。だが例えば、Googleの組織や人事設計にはこれらの知見や考え方が反映されており、日々組織パフォーマンス向上に関する独自の研究も続けている、としたら?実際に彼らは「良いアイデアの流れ」も「ソーシャルインセンティブ」も組織にビルトインされている。 ここのところ日本企業は優秀な人財を採ることには重点を置いて躍起になっているが組織設計・運営についてはかなり無頓着になってきている印象だ。世界ではデジタルの進化とともに組織・組織論も進化していることを忘れてはいけない。デジタル進化が飛躍的なら組織進化も飛躍的だと心得よう。組織にもイノベーションが起こっている。 (文責:金光隆志)
異質ソリューションの威力
ヒット商品やサービスにはどんな特徴・パターンがあるのか。誰しも興味があるだろう。ヒットするかどうかには、ネットワーク作用に係わる偶然性の影響が大きい。だがヒットした結果の商品・サービスを分析すると、そこには興味深い特徴・パターンが認められる。 提供価値における独自性や差別性がヒットの要件のように語られることが多い。 だがヒットの実際を、後付けの説明ではなく発生論的に見てみると、提供価値サイドにおける“あっと驚く”新機軸を考えることから生まれたヒット商品・サービスというのは殆ど存在しない。 実際には、提供価値サイドで見ると、昔から懸案だった大きなアンメットニーズや無意識に強いている妥協、あるいは“こんなことが出来たらいいのに”と誰しもが思っていたもの・思うであろうもの、である場合が圧倒的に多い。例外はエンタテインメントにおける偶発的流行かポストイットのような全くの偶然の効用発見かである。 要は提供価値においては、奇をてらった意外なイノベーションなどのヒット例は殆ど無く“王道の大きな課題解決”がヒット商品・サービスにおける共通要因と言ってよい。なお、余談だが、ここで意図する王道の課題とは消費者にとっての王道の課題のことだが、資源が不足するサプライヤーが自らの課題に対し苦肉の策で編み出した解決策が思いがけない効果を生んで大ヒット、という例も結構あることは付言しておこう。 さて、では“王道の大きな課題解決“がどのようになされているか。実はヒットにおいてはこの課題解決策が、業界における従来の延長線にない、業界内の既存の様式や発想から逸脱した・異質な技術やソリューションによる場合が非常に多いのだ。しかも異質導入の結果、商品やサービス形態においても革新が起こり、「新しい形」でワクワクさせるものに仕上がっていることが多い。異質ソリューションのサイドエフェクトは他にも色々あるがここでは割愛する。 課題解決型ではないケース(エンタテインメント等)のヒットでも、価値サイドをいじくりまわして何か生まれたというのではなく、異質な技術や手段を導入した結果、意外な新たな価値や形が生まれて話題となってヒットとなった商品が多い。 要は、ヒット商品・サービスにおいては、提供価値よりも技術やソリューションにおいて業界の常識を逸脱しているケースが圧倒的に多いのだ。その結果として大きな提供価値や新たな提供価値に繋がっている。先進技術・ソリューションではない。その業界では今までになかった異質な技術・ソリューションである。 一番上等なのは、無意識の大きな妥協を異質ソリューションで解決することだ。さすがにそれは簡単ではないにせよ、せめて、当て所もなく革命的な価値を探すことに労力を費やすくらいなら、王道の大きな課題に狙いを定めよう。そこには無謀さがあってもいい。そして、その解決には従来の業界常識を外れた手段にまで発想が及ぶべく準備をしよう。セレンディピティの源泉は、解決したいという強烈な問題意識と限界への挑戦である。 (文責:金光隆志)
価格とコストと創造性と
コストと値付けに関する深い議論をトンと聞かなくなった。特に新事業や新サービスでは殆ど聞かないのだ。 基本的にはマークアップ方式で、作るのにだいたいいくらかかるからこれだけマージン乗せて、というような感じであろうか。 ターゲット価格を定めて、それを満たすべく仕様・デザイン・部品・工程などをギリギリと詰めて考えるというのはどうやら時代遅れか的外れになったかの様相だ。 売れるかどうかも解らない段階でスペックをいじっても仕方ない、先ずは市場にβ版を投入して反応を見ながらリーンに改良を加えていくべきだ、云々。正論である。 イノベーションの段階ではそんなことは考えない、いや考えるべきではない、それは事業が大きくなってきてマスユーザーを対象にする段で改めてしっかり考えるべきことだ。云々。これも正論である。 イノベーションやスタートアップの教科書には大概その手のことが書いてあるだろう。 でもそのことでかえってクリエイティビティが下がっているかもしれないとしたら? 実際創造性の教科書には逆のことが書いてある。 制約を加えた方がかえって創造性は高まるのだと。 市場の商品価値体系を元にシビアに要求価格を設定してみよう。直接競合がいなくても、いやいない時こそ。するとたちどころにトレードオフが発生するはずだ。この機能を入れたい・でも入れると他を削らなければいけない、とか、デザインはこうしたいけどそうすると生産効率が大幅に落ちる、とか。 このAかBかの選択をシビアに詰めるだけでも随分と商品やサービスが洗練されるだろう。そして最も創造性が発揮されるのが、AもBも両方外せないときに浮かび上がる第三の道Cが考案されるときだ。AもBも満たされる場合もあればAもBも棄却する場合もあるがいずれにせよ第三の道である。 かつて、売上急落に直面したアパレル企業で、毎週このAかBか、いやCだ、の議論をして52週MDプロセスを刷新し、売り上げを急回復させた企業にお目にかかったことがある。 市場の要求価格水準に絶対に妥協しないことで、売れる確率が上がっただけでなく、思いがけないクリエイティブな解決策でむしろデザイン性もよくなってヒットする商品も誕生していた。 既存事業と新事業ではワケが違う、と考える向きもあろう。実際全てが同じではない。しかし、ビジネスである以上価格とコストが最終審級の双璧であり、価格とコストに向き合うことで創造思考も戦略思考も一段と覚醒するこは覚えておいてよいだろう。 (文責:金光隆志)
需要浸透の構造・パターン
商品の特徴をターゲット需要者に対して効率的・効果的に伝達・訴求する。そのアレンジメントとして何らかの話題性を付加したり消費ストーリーを付加したり、といったことがマーケティングの基本パターンである。 では、そのようにマーケティングを組んだとして、商品はどのように市場に浸透していくのだろうか。もっと言えば、どんな浸透パターンを狙うのか。 この問いに答えられないで組まれたマーケティングはひいき目に言って片手落ち、もっと言えば結果は市場という神のみぞ知る、ということになる。既存商品リニューアル等でいつも通りのパターンを踏襲すればある程度結果は予測できるという場合ならそれでも良い。 だが、新規性の高い商品、新事業においてはどうか。 需要の市場浸透は、仔細には様々あれども、構造的に見れば、凡そ3つのパターンに集約される。そのことに自覚的になれば、マーケティングに新たな次元を導入することが可能になる。3つのパターンとは簡単に言えば、①個人の主体的選択の集積、②スケールフリーネットワーク効果の駆動、③ランダムネットワーク・その結果として自己組織化臨界形成、である。市場浸透構造という視点を持つと、結果論だが例えば、同じヒット映画と言っても「シンゴジラ」は①、「カメラを止めるな!」は②、「アナ雪」は③のパターンが主導的であっただろう云々と推測ができるであろう。 ネットワーク効果、というと、「インフルエンサーマーケティングとかその類か」と考える向きもあろう。確かにインフルエンサーマーケティングはスケールフリーネットワーク効果の駆動と親和性が高い。だが、インフルエンサーマーケティングに限らずどんなマーケティング手段であっても、どの市場浸透パターンも発生し得る。言い換えれば、浸透パターンの狙いの定めがないマーケティングからは、偶然の結果しか生まれようがない。 例えばユーチューバーを使ったマーケティング企画があがったとしよう。これはそもそも根本的に外している可能性さえ高い。ユーチューバーなんて中高生しか見ていない。そこは目をつぶるとしてもどんな浸透効果を期待しているかに自覚的だろうか。従来マスメディアにおける認知獲得の代替・補完、程度のことしか考えられていないなら考え直した方がよいだろう。 浸透構造・パターンに自覚的に狙いを定めても結果を完全に支配・コントロールすることは出来ない。だがマネジメントは可能になる。新規性の高い商品・事業であればあるほどこの差は大きいであろう。 (文責:金光隆志)