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Column
ー コラム

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ビジネスの色々なテーマを徒然なるままに考察し書き下ろしたエッセイです。
ステレオタイプなビジネスの見方を更新するべく、ビジネス論の範疇で能う限りリベラルな視点・切り口を導入しています。
ビジネスの、経営の、パルマコン=毒⇔薬として、思いがけない誤配を夢想した宛先不明の手紙として。

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2021-02-23

資本効率経営の功罪

資本効率経営が大企業の経営企画部あたりでちょっとしたホットトピックの一つになってきている。いつか来た道、大体10年周期くらいで似たようなブームがくる。新しい財務指標で「あの低迷していた企業○○がXXXを導入して復活した」とか「あの優良企業△△もXXXを活用している」みたいな話題がメディアで取り上げられ、新しい指標のブームが生まれるようだ。で、最近ならROIC経営、である。ちなみに資本効率経営に限らず、新しい経営手法が世界の潮流から3周くらい遅れて日本でブームになる、というのがここ数十年の現実。ちょっと前だとデザイン経営。米では20年くらい前にムーブメントがあって10年ちょっと前にピークがきて、今や米でそんなこと声高に言う人は殆どいない、というのは言い過ぎにせよ、まぁブームでも先端でも何でもない。米で誕生する経営手法は、その時代時代の米国企業や産業界が抱える課題に応えるかたちで台頭している。つまりコンテクストがある。対して日本では少なくともこの30年近く、ずっとちぐはぐなままである。デザイン経営(最近ではアート思考)と資本効率経営のブームがほぼ同時というのは笑えない冗談ではあるが、デフレ基調が変わらないままここまできたのだからインフレの環境で生まれた手法に遅れて乗っかったところでちぐはぐになるのも、さもありなん、である。資本効率を考えて経営するなんて当たり前のことだが、投資が加熱している環境・企業の状況下で、冷却装置として資本効率を厳し目に見る、というのが米やグローバル企業で起こるムーブメントなのであって、今の日本企業で皆が資本効率とか言い出すと、益々実体経済の景気は悪くなるのがオチである。絵に描いたような合成の誤謬が起こりそうだ。どうするんだろう。 さておき、資本効率経営。まぁ今ならROIC。多角化企業が事業を整理する際にはとてもわかり易い便利な指標だが、成長・拡大を目指すとなると途端に足枷となる。既存資産の範囲で事業を行う限りは拡大であってもまずまず機能する。PL上の利益拡大と資本効率の間に齟齬は殆どない。だが投資が絡むと困難が生じる。単純な話、追加設備投資により利益が拡大できるとしても限界資本効率が既存の資本効率を下回る場合、事業の資産運用サイドからみたROICは低下することとなる。だがその投資が例えば会社の現預金範囲で賄えるのなら調達サイドからみた全社ROICは向上する。この投資は是か非か、議論になるならまだしも、多角化企業では投資の検討・起案は先ず事業部が行うのが通常で、ならばそもそも議論祖上にあがらないかもしれない。それでもオーガニックの投資ならまだ単純、M&Aでは益々事態は複雑・困難となる。本来資本にとって、M&Aは自前成長よりも大きく確実な成長機会をもたらすことは多い。会社の既存資産の範囲でM&Aを実行出来る場合、連結で見れば被買収企業の純資産分の資産圧縮効果で全社ROICも向上する傾向にある。だがPBRが高い、したがって一般的に言えば有望な企業が買収対象であればあるほど、のれん代を考慮するとROICは悪くなる可能性がある。被買収企業の規模にもよるが、のれん代の大きい企業を全て現預金等で賄って買収ということは少なく、新規調達して買収することも多い。被買収企業の純資産額以上の資金調達を行って買収するならば、短中期では全社ROICを悪化させる可能性が高い。しかるに本来M&Aは、フェアヴァリューで見た企業価値よりも安く買えるなら、その投資はファイナンス的には是、事業シナジーが見込めるならなおさらであろう。だがROICに拘泥すると大型M&Aは非となりやすい。より先鋭的な言い方をすれば、これから先の企業価値増(≒FCF)最大化と過去の投資の正当化(≒ROIC)のどちらを優先するのかの問題に帰着する。短期の財務パフォーマンスを気にする会社は今の株主の期待値を大事にしていると言えなくもないが、緊縮的な財務戦略を続けていると、いずれ利益総出力に限界が訪れ配当性向は高まるばかり、しかもいずれそれも限界にきてついにはその株主も離れていく。かくして会社は衰退の一途をたどる。上場企業の株主なんてどうせ入れ替わるのだ。にっちもさっちも行かなくなって誰からも振り向かれなくなるくらいなら、今のうちに短期重視の株主から長期重視の株主に変わってもらったほうがいい、という企業が今の日本にはたくさんある。しかし、ブームに乗って資本効率経営と称して無自覚に自ら自分の首を締めようとしている企業を見るにつけ、さながらタナトスの欲望、自殺願望があるのではないかとさえ疑ってしまう。というのは悪い冗談だが。 資本効率経営と事業創造・成長の両立を図りたい企業に処方箋を述べよう。既存事業については、先ずは収益力強化の方策を実施しよう。商品別・顧客別の真の収益を把握出来ている企業は驚くことに未だに極小である。管理会計がずさん・未整備なまま(そもそもこんな状況では事業別ROICもへったくれもないのだが)何十年も放置されているのだが、そこはきっと文字通り金銀財宝・宝の山である。売掛買掛サイトや細かい経費を気にするくらいなら商品・顧客ポートフォリオをしっかりリストラクチャリングしよう。多くの事業ではそれで大幅にROICも向上・改善するはずである。収益力を強化しても業界平均ROICを大きく下回る事業については整理・できればカーブアウトの道を探ると良い。そうして生まれたキャッシュを、今の配当を増やすためではなく将来の配当をふやすため思い切り投資に回していこう。投資したくても魅力的な事業案・候補が無いのだ、という声もあるだろう。そうした企業では不確実性の見方を更新することが処方箋となるだろう。より具体的には新規事業の検討や投資判断にオプションの考え方を導入しよう。オプション価値を考慮すれば投資機会はぐっと増えてくるはずだ(コラム「事業創造とオプション創造」をご参照)。なお、投資はできれば日本優先で考えられたい。大企業が皆日本での投資を活性化すれば、新規事業の成功確率は全体として向上していくはずなのだ。 過激に聞こえたかもしれないが、これが数十年前、長年不況にあえいでいた米国が奇跡とさえ思えるパックスアメリカーナ復活を果たした道標。リストラクチャリング・リエンジニアリング旋風ののち、情報スーパーハイウェイ構想のもと、国内デジタル投資が活性、その際度々参照・立脚されたのがリアルオプション投資、株式市場だけでなく実需景気も徐々に浮上しデジタル以外の分野も活性、結果、各産業の競争力は回復・飛躍的に向上し、再びグローバル競争の雄へ。云々。 だいぶ話が大きく、そして長くなってしまった。今回はこの辺で。 (文責:金光 隆志)

2021-02-22

セレンディピティの可能性を高める

新規事業の創出・成功をセレンディピティ(偶然の発見・気づき)にかける、というのは中々出来ることではないだろう。経営陣にしてみれば投資家に許容されそうにない、と思うだろうし、しからば当然、事業開発担当にとっても経営陣から許容されそうにない、ということになる。 だが、セレンディピティが事業創造・成功に果たしている役割は、残念ながらというのも変だが、恐らくは想像以上に大きいだろう。InstagramもYoutubeもGrouponもPayPalもAirBnBもTwitterも、Appleも、ポストイットも、コカ・コーラも、じゃがりこも、等など、セレンディピティがなければ生まれていなかった。 可能性の連鎖を描ききるという前回の話(「事業創造とオプション創造」参照)は、セレンディピティの潜在を出来るだけ顕在化させておく試みでもある。また、描ききることが、描いていなかった真に想定外な気づきへの可能性・感度を高めることに繋がる。 今回は、セレンディピティの可能性を高めるもう一つの方策、モジュール化×バザール化について少し解説を試みよう。 セレンディピティとは、思いがけない発見や出来事からの気付き、である。ではセレンディピティを起こす可能性を高めるにはどうすればいいか。思考実験をすれば簡単にわかる。仮にあなたが、たった一つのことを、たった一人で、しかも情報を遮断して、行っているとしよう。セレンディピティが起こる可能性は?限りなくゼロであろう。ならばその逆、色々なことを、色んな人・多くの人と、情報をやり取りしながら、行ったとしたら?偶然の出来事可能性は高まっていくだろう。だが、過剰な複層化、過剰な情報、つまり複雑性が過剰になってくると、発見や気付きの可能性は徐々に下がっていくだろう。つまり量と確率がトレードオフになっていく。そこで、中くらいのいい塩梅を探るか、トレードオフを解消するか、どちらかによってセレンディピティの可能性を高められそうだと予想がつく。しかしてその方策、それがバザール化×モジュール化(複層化の方法がバザール化、複層化しつつ複雑性をコントロールする方法がモジュール化)である。バザール化はオープンソースの開発方式からのアナロジー、モジュール化は製品開発や生産・生産管理の方式からのアナロジーなのでそちらに不案内な人は一度見てみるとよい。バザール化は、簡単に言うと事業開発を社内的社外的に多様化・多重化かつ可能な限りでオープン化していくことに相当する。多様化は、一つの大きな事業テーマのものとで、商品特性・サービスタイプ・事業モデル・顧客層などを多様に探査していくことを指し、多重化は、例えば一つのサービスタイプにおいて検討する担当・外部パートナー等を多重にしておくことを指す。オープン化は、狭義のオープン開発という意味ではなく、関係ありそうな人・なさそうな人を問わず可能な範囲で内容やコミュニケーションをオープンにしていくことを指す。バザール化によって瞬く間にアプローチや関係ネットワークが成長・多様化し、想定外の展開や情報のインベントリが生成されていくだろう。一方モジュール化は、この多様化の動き・流れをカオスでもなく統制でもないレベル・中くらいの複雑さ、いわばセミラティス構造に落ち着かせる働きをする。セミラティス構造の特性については都市論に触れたことがある人にはお馴染みだろう。詳しくは是非そちらを参照して頂きたい。なぜ人工都市が死んでいくのか、自然都市が有機的な発展を続けるのか、大変示唆深いだろう。さて、セミラティスを構成するモジュールの分け方・組み方には色々なやり方がある。事業モデル単位で分けるとか、機能単位で分けるとか、切り口の一律性・一貫性・整合性に拘る必要はない。むしろ、硬直的にならないようにセミラティスで相互に重なり・繋がる線を担保していくことが大事である。セミラティスに構造した各モジュールは、成長・多様化を損なうことなく様々な茎を伸ばし・連結していきながら、自然に進化していく。一方でそれぞれのモジュールは事業開発エンジン・アセットとなっていく。アセットとなったモジュールは、切り離して全く別の事業創造テーマにあてていく、といったことも可能になっていく。これは前回話した「オプションの創造」に関する最上級の打ち手でもある。 バザール化によって人々や出来事のネットワークを多層・多茎化し、拡張・連結・切断を繰り返しながら想定外の発展を促進する。一方でモジュール化によってその発展による複雑性をカオスと統制の間の絶え間ないゆらぎに緩やかに組織する。セレンディピティの起こる可能性は飛躍的に高まるだろう。セレンディピティと言うと、偶然待ちの消極的な姿勢・自らではどうすることもできない運、と捉えられがち。だがその考えでは残念ながらセレンディピティは訪れないしセレンディピティが訪れないとしたらイノベーションを起こせる可能性はとても低いだろう。本日論じたことは従前の組織編成・運営システムとは180度違う効率・持続成長のマネジメントと変革のマネジメントが180度違うのは当たり前なのだが、そのことにちゃんと向き合える企業はまだまだ少ない。逆に言えばチャンスでありまだまだ可能性はあるということだ。全社を180度違うマネジメントスタイルに変えるという話ではない。そんなことをしたら既存事業に支障をきたす。かといって1%ですむ話でもない。10%程度のリソースをバザール化×モジュール化の組成・運営に振り向けていけば、事業創造にぐっと近づくことができるだろう。 (文責:金光 隆志)